ちくたく、ちくたく。

 とけいの『おと』は、りくにある『おと』のなかで、すきなもののひとつです。ながれていって『もどらない』ところは、みずとよくにています。
 かようびは、『りゅうせいたい』のみーてぃんぐの日です。いつもならじゅっぷんまえにはあつまるいちねんせいたちのすがたが、きょうにかぎってみえません。
「珍しく遅いと思ったらなんだ、一年はさっきの時間は体育だったんだな!」
 まどからみをのりだすようにながめるちあきのしせんをおえば、そこにはみどり、てとら、しのぶのすがたがありました。ようぐをかたづけていたのでしょうか。さんにんとも、あわててこうしゃへとはしっています。

「お前たちー!急ぐのも結構だが、転ぶんじゃないぞー!!」

 まどをあけたちあきのおおきなこえが、ぐらうんどにはんきょうしていました。しのぶはおどろいてころび、てとらははずかしそうににがくわらい、みどりはやっぱりうんざりしたかおをしています。
「はっはっは、仙石はあわてんぼうだな!」
 いまのは、ちあきがわるいとおもうんですけどね。
 いってもきかないことはわかっているので、ぼくはぼんやりそらをみあげました。

 うみの『あお』がいちばんですが、そらの『あお』もなかなかすてきです。あきのそらはたかく、くもひとつないあおぞらでした。
「もう秋か、随分あっという間だったな」
「そうですねぇ」
「……そろそろ引き継ぎのことも考えていかなければな」
 ふつうのがっこうは、なつがおわるころからそれぞれのそしきでの『ひきつぎ』がはじまるのでしょうか。ゆめのさきは、あいどるのがっこうです。さんねんせいの『しんろ』のはんいがあるていどきまっているので、ふつうのがっこうよりもながく、さんねんせいはそしきにしょぞくしていられます。
「ウチは二年がいないからな、あいつらにはいきなり先輩やリーダーをやらせることになるのか」
 さんにんのすがたのみえなくなったぐらうんどを、みおろしながらちあきはいいました。ふだんはじしんまんまんのくせに、ちあきはじぶんのしてきたことをふりかえると、すこしよわきになる『へんなくせ』がありました。
「だいじょうぶですよ。あのこたちはどうにでも、やっていける。たとえちあきがいなくなっても、です」
 そしきも、せかいも、だれかひとりが『いなくなった』としてもまわっていかなくてはならないものです。『みず』も『じかん』も、とどまることなくながれるのです。そうやって、『ぼくたち』はつづいていくのです。
「……俺は」
「ちょっぷです」
「ぐっ!!なかなかの威力だったぞ……」
「だってちあき、『しめっぽいこと』いおうとしましたね?」
 ちあきはいったい、なにをきにしているのでしょう。『りゅうせいたい』は、ぼくたちのにゅうがくまえからある『ゆにっと』です。そしてぼくたちがいなくなっても、つづいていくのでしょう。そう、ちあきがいなくなっても。でもちあきは、『もりさわちあきにしかできないこと』をきちんと、なしとげているはずです。
 あのこたちにぜんぶつたわっているかは、まぁ、さだかではないのですが。だってちあき、あつくるしいですし。
 それでもたぶん、だいじょうぶなんです。なんていったってあのこたちは、ちあきがみつけてみちびいてきた、ほしのひとつ、じまんのこうはいたちなんですから……というのは『りゅうせいたい』をそつぎょうするまで、いわないでおこうとおもいます。

「まだまだちあきは、『りゅうせいたいのれっど』なんですから」
「――そうだな。ははは、そんなことも忘れるとは、リーダーとして情けないな!」

 なさけなくなんか、ないのです。ちあきがそうやって、まよっているかれらのてをひいて、ひかりのあたるみちにつれだそうとするから、ぼくは『りく』でのいばしょを、『ここ』にきめたのです。そうでなくとも、ちあきのそばでは『ひなたぼっこ』がしやすいですから。ちあきのえらんだみちならば、どこへでもいこうとおもえました。

「ちあきは、いつもあのこたちのことばかりかんがえていますね」
「それはもちろん、流星隊の大事な後輩だからな!」
「――もしもちあきが、『せいとかい』とたたかうことをえらんでいたら、ぼくは『おに』にでも『あくま』にでもなるつもりだったんですけど、ね」
 ちあきのめざす『みち』をはばもうとするものがあるなら、ちあきのえらぶ『まぶしい』もののためなら、それくらい、なんてことないとおもいました。ちあきのよびこむ『陽射し』は、しんかいまでをもてらす、まばゆいひかりなのです。
「ん、なんだそれは? ああ、ハロウィンと節分の話か!? 来年の話をすると鬼が笑うとよく言うな! それはともかく、奏汰は鬼でも悪魔でもなく流星隊のブルーだろう? まだまだよろしく頼むぞ」

 ちあき、きみはほんとうに、いとおしいおばかさんですね。そのおかげでぼくは『おに』にも『あくま』にもならないまま、『りゅうせいぶるー』でいられるみたいです。
 そうしているあいだに、ばたばたとあわただしいあしおとがきこえてきます。

「だぁーっ!!すんません、遅くなりました!」
「拙者が転んだばっかりに、面目ないでござる……」
「つーか守沢先輩、ああいうのやめて貰えますか? 教室戻った時の皆の反応思うとほんと鬱になるんで……」
「全員揃ったなら何よりだ! 流星隊のミーティングを始めるぞ!」
「……またこの人は、人の話聞いてないし」

 じゅうがつのそらは、たかく、あおく、すんでいます。
ひざしもあたたかく、きょうも『みずあび』がきもちよくできそうですね。


 ちくたく、ぷかぷか。
 みずも、じかんも、ながれてゆきます。




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